カイロこまば通信 第83回
【2011.12.21 発行】
テーマ:背景となる潜在的な問題点を探るべき…
まずは1週間ほど前からの右肩甲骨付近の痛みで来院された患者さんの症例をご紹介します。なお、この方は30代男性、職業はカメラマンとのことでした。
【症状】
1週間ほど前から右肩甲骨の内側に痛みがでて、痛みは外側に広がっている。何もしていなくても重く感じ、動くと痛みが出る。右の胸部にも重い感じと圧迫感がある。特に痛めるようなことはしておらず、仕事で少し重いものを持って振り返るような動作で痛みが出た。地元の整骨院で2回治療も改善してこない。普段は肩こりや腰痛はないが、右肘にたまにしびれが出る。なお、半年ほど前からボルダリング(岩や壁を登るスポーツ…)をしているとのことでした。
【経過】
この方は、首・肩・腕まわりの筋肉の緊張が強く(パンパンにはっているという表現が的を得ているかと…)、お仕事がら重いカメラを持って同じような姿勢をとっているのだろうな…、ボルダリングの影響も大きいのだろうな…ということが想像されました。ただ肩こりはないとのことでしたので、潜在的なアンバランスがベースにあって、何かのタイミングでそれが顕在化したのでは?…と推察されました。
筋力検査をしてみると、右中部僧帽筋(痛みの部位である肩甲骨と背骨の間にはっている筋肉です…)に弱化が認められました。その筋肉が付着している背骨(胸椎…)に強い圧痛があったことも、この部分に問題があることを示していました。仕事やボルダリングによってかかる右腕への負荷が、腕の付け根である肩甲骨を安定させる筋肉、更には胸椎に直接的なトラブルを引き起こしたと考えられます。
一方、潜在的な問題を示す所見も認められました。カイロテーブルにうつ伏せになると両腕がしびれたり、肩前面に負荷をかけると筋力が不安定になるといった点です(問診でも右肘のしびれを訴えていますし…)。鎖骨から肩前面にかけては動脈や腕神経叢という神経の束が通る部位で、圧迫されると腕への血流や神経の働きが阻害されることがあります。この部位の緊張が拮抗関係にある背面の筋肉の弱化を誘発しているとも考えられますし、首・肩の問題がある方にとって気になるポイントの一つです。
初回は頚椎・胸椎へのマニピュレーション(手技のことです…)を行いながら中部僧帽筋の筋力を回復させ、中部僧帽筋と拮抗関係にある肩前面の筋肉に対して神経血管のルートに沿って筋緊張を解放させました(少し痛みを伴いますが、少々我慢して頂いて…)。施術後には右肩甲骨の痛みは改善していましたが、重い感じが残りました。2回目来院時に伺ったところ、痛みもしびれもなかったが、まだ前後から圧迫される感覚があるとのことでした。間隔をあけながら施術し、4回目来院時には痛みや右肘のしびれ、そして圧迫感も改善していました。その後も2回ほどみさせて頂いておりますが、症状が戻ることはないそうです。
【コメント】
この方だけではないですが、急性症状の場合、その背景となる潜在的な問題をどう改善して行くかが再発防止の観点からも大切です。特にこの方の場合、腕を使う仕事とスポーツをしていることを考えると、そこがトラブルを引き起こす潜在的な問題になりうることは容易に判断できます。痛みだけを追うのではなく、その背景となる生活習慣、職場環境などを把握しながら症状を多角的にみることが大切なのです(なので、当院では問診が少し長くなる傾向が…)。もちろんこの方にも、座り方や、立つ時に足にかかる重心のお話などをさせて頂いております。カイロプライクティックは全身から評価し、そこにかかる負荷を軽減させ、本来の修復力(自然治癒力…)を発揮しやすい状態に導くことを基本としています。痛みだけを見るとカイロプラクティック本来の良さは出てきません。その基本に沿うことが、結果QOL(生活の質…)を高めることにつながるのです。
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