カイロこまば通信 第15回
【2007.06.11 発行】
テーマ:目標は誤った脳の記憶を正すこと!
動作の記憶に関して、まずは普通に行えていることのなかにも本来の働きができていないケースがたくさんあるというところからお話して行きます。少々分かりにくくなってしまうかもしれないのですが、とても大切なポイントですから、ぜひ最後までお付き合いください。
当院では、身体の機能的な問題(ぜひ前号を!)を確認する方法の一つとして筋力検査を用います。特定の筋肉を検査できるようポジションを限定し、左右で比較。筋力といってもパワーをみるのではなく、機能、つまり筋肉が上手く収縮され、それが維持できるかをみています(脳から筋肉への指令、筋肉から脳へのフィードバック情報の伝達といった神経系を含めた機能です)。
実際に検査をすると、左右の力の差や、力の入らなさに驚かれる患者さんも多いです。痛みで力が入らない場合もありますが、痛みがなくても検査のポジションを維持するのがやっと…という方もいらっしゃいます。股関節を支点に足を後ろに曲げるといった日常的な動作(普通に歩く動作ですよね)は何も問題なく出来るのに、大殿筋(お尻にある同じ作用を持つ筋肉です)といった特定の筋肉だけに限定すると力が入らない…。何故そのようなことが起こるのでしょうか。キーワードは代償作用です。
股関節を支点に足を後ろに曲げる筋肉は、先ほどあげた大殿筋(作用としては一番メインなのですが…)だけでなく、膝を曲げる作用を併せ持つ筋肉(大腿二頭筋、半腱様筋、半膜様筋)もあります。また、背中にある脊柱起立筋(一般的には背筋と言われます)という筋肉が働いて骨盤を持ち上げることで大殿筋の働きをサポートします。そのような筋肉が、本来はメインである大殿筋の働きを代償してしまうことがあります。姿勢的なアンバランス(骨盤が普段から前傾している…)、日常生活習慣(普段から椅子に座ることが多く、股関節を前に曲げる筋肉が過度に緊張している…)、過去の痛み(痛みからの逃避姿勢が記憶されて…)などが影響し、本来働くべき筋肉が普段から上手く使われないままとなって弱化し、その代償作用を脳が記憶してしまうのです。
この記憶は少々厄介です。普通に歩いているつもりでも、他の筋肉を過度に働かせて筋疲労を起こしたり、バランスを崩して関節に負担をかけたりします。無意識に行われているので、いつのまにか習慣化し、もしかすると他の代償作用をも生んでいるかもしれません(痛みや動きづらさとなって初めてあらわれてくるのです!)。筋肉の働きを改善しても、症状が戻ったり、姿勢がまた崩れてくるのはこのような要素が残っているからなのです。
この問題を含めて治療して行くことがカイロプラクティックの目指す機能的な問題の改善です。筋肉や関節を働ける状態に戻して正しい情報を脳に伝えること、脳に保有する内部モデルを塗り替えて代償作用を改善することが大切なのです。ただ、内部モデルを塗り替えるといっても、コンピュータのプログラミングを修正するようにすぐに反映されるものではありません。だからこそ、治療後の変化を大切にし、身体の状態に応じてエクササイズをお願いしているのです。
代償作用が完全に改善されるとは限りません。仕事によって、家事によってと日常生活のなかにはどうしても避けられない動作や習慣があります。そのような制限の中で、最も良いパフォーマンスを引き出し、患者さん個々のQOL(生活の質)を最大限にあげるよう目指しています。定期的な来院をお勧めするのも、このような理由からなのです。
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